カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「咲」

耳元で呼ばれた。

「はい」

返事をすると、一度抱きしめる腕が解けた。
月城さんを見上げる。
月城さんは私を見下ろし、口を開いた。

「結婚しよう」
「え?!」

このタイミングでプロポーズとは予想していなかっただけに驚いた。
でも気持ちを伝え合った今だったのかもしれない。

「よろしくお願いします」

短く、でも真っ直ぐに月城さんを見上げて笑顔で答えれば、月城さんも笑顔で応えてくれた。

「一生愛し抜くからな」

月城さんに抱きしめられ、私も月城さんの背中に手を回す。

「私も。月城さんのこと、ずっとずーっと好きでいます」

それからまた体を離し、見つめ合う。
目を閉じ、唇が重なるのを待っていると、触れる直前にお風呂が沸いたお知らせが音楽と共に流れた。

「入るか」

苦笑いの月城さんに思わず笑ってしまう。

「はい」

と言って入ったものの、やっぱり初めてのことは緊張してしまう。

「見ないでください!」

このセリフを何度口にしたことか。

ようやく落ち着いたのは浴槽に浸かってから。
濁り湯だから対面で入っていても恥ずかしさはあまりない。

「いい香りですね」

お湯を手ですくって匂いを嗅ぐ。

「癒される」
「気に入った?」

月城さんに聞かれて頷く。

「秘書の方にお礼を伝えておいてください…って、それじゃ一緒に入ったみたいな報告になっちゃうからすみません、なにも言わなくていいです!」

途中で変なことを口走っていると気付き、慌てて取り繕ったものだからおかしな早口になってしまった。
月城さんが声に出して笑う。

「ハハ。大丈夫だよ。秘書も『彼女さんと使ってください』って渡して来たくらいだから」
「え?あ、そう言えば服部くんが言ってましたね。公認だ、とかって」

あれはどういうことなのか。

「あぁ。服部のプロフィール写真に気づいた社員が服部を問い詰めたんだ。それで服部に相談されて隠す必要ないと伝えたら一気にきみとの交際が広まった」
「大丈夫でしたか…?」

恐る恐る聞くと月城さんはニコリと笑った。
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