カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
パーティー
しかし。
約束の場所でオーダーメイドの上質なスーツを着こなし、私を待っている月城さんを目にした瞬間、帰りたいと本気で思った。
だって、道行く女性がみんなチラチラと月城さんに視線を送っているのだ。
待ち合わせの相手が私だと知られていいことなんて何もない。
「でも……」
ドタキャンは常識的にナシだ。
「お待たせしてすみません」
意を決して月城さんの前に飛び出した。
なのになぜか無言で。
「あの……」
月城さんの顔を伺うように覗き込む。
「その服」
月城さんが言ったので服に目を向け、答える。
「奏音さんにお借りしたんです。仕事とは関係のないものと伺ったので」
春らしいペールトーンの花柄ワンピースにトレンチコートを羽織ってきた。
ワンピースは身長差があるから着られないと思ったけど、事前に奏音さんが丈を調整してくれたおかげでサイズはピッタリで着心地もとてもいい。
「とてもよく似合ってる。髪も」
普段はローポニーテールにしている黒髪を美容室でパーティー仕様のハーフアップにしてもらった。
「あ!美容室の代金はちゃんと支払ってきましたので」
奏音さんは月城さんにつけておけばいい、連絡しておくからと言っていたけど、そんなこと出来るはずがなく。
「気にする必要ないのに。服も買うつもりだったんだ」
「それなら余計にお借りしてきてよかったです」
苦笑いで答えると月城さんは肩をすくめて見せてから歩き始めた。