カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
そこを分かってくれているのなら距離を作ってしまいたくなる気持ちを少しは理解して欲しいものだけど。

「仕事に支障をきたさないようにはいたします」
「いや、そういうことではない。仕事はしっかりしてくれている。人間関係のことも理解しているつもりだ。ただ、きみはどうにも俺に好意的でないな、と思って。少し戸惑っている」

それはつまり女性なら誰もが月城さんを好きになると思っているのだろうか。
それとも壁を作られているとやりにくいことがあるから仲良くしようと言っているのか。

発言の意図を考えあぐねていると月城さんは私を見下ろして言った。

「実は今日、きみは俺の恋人として伝えてある」
「はい?!」

突拍子のない話に大きな声が出てしまった。

「『パートナー』とは聞いていましたが『恋人』ですって?!」

言えば月城さんがフッと小さく笑う。

「笑ってる場合じゃないですよ!そんな嘘をついて何の意味が?本物の恋人に失礼ですよ!?」
「いないからこそきみを連れてきた。本当はもう少し俺に好意を抱いていて欲しかったが。まぁ、仕方ない。今日一日、きみは俺の恋人として振る舞ってくれ」
「なぜですか?!」

その切実な問いに月城さんは答えてくれない。
月城さんは見えてきたお店の方に目を向けただけ。
でも混乱する私を見かねて、短く囁いた。

「とりあえず上司命令だと思って頑張って」
「そんな……」

なんてことになってしまったのだと、展開についていけず、頭の中が真っ白になる。

「さ、行くぞ」

月城さんに導かれて足を早めるも腰は完全に引けてしまっている。
気付いた月城さんは私の腰に手を回した。
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