カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「ひゃっ!」
くすぐったくて変な声が出てしまった。
「ハハ」
月城さんが笑う。
「笑わないでくださいよ」
本気で訴えても月城さんは笑顔のまま。
なんでそんなに楽しげなのか。
全然楽しめない私は気が滅入り、俯いてしまう。
「こら」
月城さんはそう短く言うと私の顎に手を触れ、俯いたいた顔をクイっと上げた。
「綺麗な顔を隠すな」
「な?!」
そんなこと言われたこともなかったし、至近距離で目が合って、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「真っ赤だな。可愛いよ」
「そ、そ、そういうこと!」
言わないでください、とまで言えなかった。
月城さんが楽しげに笑うその笑顔に視線が奪われてしまったから。
「月城が笑っているなんて珍しいな」
心の声が出たのかと思った。
でもその声は低く、辺りを見回すとふくよかな男性が現れた。
「武地」
月城さんが手を挙げた。
「オーナーの武地だ」
耳打ちされて頷く。
「開店おめでとう」
「おめでとうございます」
月城さんに続いて言うとオーナーがこちらを見たので挨拶を交わす。
「はじめまして。月城の秘書をしています加藤咲と申します。本日は開店おめでとうございます」
秘書を強調したけどどうだろう。
「ありがとう」
オーナーは聞こえていたのか、いないのか。
ニコッと歯を見せて笑った。
つられて笑顔になってしまうようなとても明るい笑顔でついカメラの入った鞄に手が伸びる。
「あの、あとでお写真、撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」
申し出るとオーナーは月城さんの方を見た。
「彼女、写真撮るの上手いからきっと驚くぞ。それとこれ。咲から」
急に名前を呼ばれてドキッと鼓動が大きく跳ねた。
でも月城さんはなんてことない顔でオーナーにシャンパンを渡す。
「花までもらったのに。ありがとうね、咲ちゃん」
「いえ」
「写真もたくさん撮ってもらえたら嬉しいな。でも食べるのも忘れないでね。シェフの作る料理、めちゃくちゃ美味しいから。食べ過ぎて太っちゃったくらい」
オーナーはそう言うとお腹をポンと叩いた。