カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「どうぞ腰掛けてください」
「わぁ、ありがとう。本当は少し腰がしんどかったの。こういうの、男の人は気づかないのよねー」
オーナーを見つめる綾音さんの視線に、オーナーは困ったように後頭部をかいた。
私はカメラを月城さんから受け取り、構えながら声をかける。
「出産はいつ頃なんですか?」
「あと三か月くらいかしら」
「性別はもうわかっているんですか?」
「男の子よ。上が女の子だから一姫二太郎」
「上のお子さんは何歳になるんですか?」
「3歳になるわ。だから七五三とお宮参りを一緒にしようと思っているの。ね?」
綾音さんがオーナーを見上げて微笑んだ。
その瞬間を見逃さない。
「本当に素敵なご夫婦で羨ましいです」
オーナーと向き合って微笑むふたりの姿を画面で確認して撮影を終える。
「今度お写真のデータお渡しします」
「ありがとう。カメラマン頼んでなかったから嬉しい」
綾音さんとオーナーに言われて月城さんを見ると「ほらな」と言わんばかりの顔。
そのしたり顔に思わず笑みが溢れた。
「あらやだ。微笑み合っちゃって。ほんとお似合いね」
綾音さんに揶揄われて恥ずかしくて、嘘をついていることもあって急に居心地が悪くなる。
「室内を撮らせていただいても?」
急によそよそしくなってしまったけど逃げるようにカメラを手にすれば、笑って「どうぞ」と言われた。
「可愛い子ね」
そう背後から聞こえたけど聞こえないふりをして来客の皆さまに撮影許可を取りながら室内を駆けずり回った。