カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「これ受け取って。ね?お菓子ならいいでしょう?」
さすがに断るのも忍びない。
差し出された菓子折りをありがたく頂戴する。
「もう、本当に加藤さんのおかげよ。だからみんなにも広めておいたわ。『マッチングアプリのプロフ撮影なら加藤さんがおススメよ』って」
ウインクした前田さんに苦笑いと会釈で返すと、前田さんはご機嫌に手を振って去って行った。
「おススメって」
隣でやり取りを聞いていた真紀が前田さんの後ろ姿を見ながら言う。
「どうするの?このままだとますます依頼が増えるよ?」
「そうかもね」
曖昧に答えると真紀は真剣な顔で言う。
「こうなったらお金取るしかないんじゃない?」
「それはしないよ」
社内規則的に副業が禁じられているわけではないけど、カメラの知識は独学だし、カメラマンを本業として稼げるだけの実力も覚悟もない。
出来得る限りのことをしたって限界はある。
責任は負いたくない。
「好評なのに」
「それは今まで撮った人たちが魅力的な方ばかりだったからだよ」
今度の撮影だって、神崎さんは秘書課の絶対的美女と言われる女性だ。
「私が撮っても撮らなくても成婚率は高いのよ」
「だとしても前田さんがあの調子で話を広めてたら依頼は増えるだろうね」
「それはどうかな?」
輸入関連企業の社内で独身かつマッチングアプリにこれから登録するために写真を撮ってもらいたいと思っている人数は社員数が500人いたとしても限られてくる。
まして噂を信じて他部署の接点のない人間にわざわざ頼んでくる人なんて一握りだろう。
「でも撮らせてもらえるなら嬉しいな」
背景よりも人物を撮るのが好きだけどその機会は現実、なかなかない。
だから、と思い本音を呟いてからスマホで時間を確認する。
「そろそろ行かないと」
「ん」
真紀の短い返事を聞きながら立ち上がり、部署に戻る。
その途中。