カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「俺はこんな風に笑うんだな」
「自分の笑顔ってあまり見ないですもんね」
「そうだな。だが、この写真は武地たちには要らないだろうから抜いて送っておくよ」
「お願いします」

頭を下げて後退し、帰り支度をする。

「そうだ」

月城さんの声に顔を向ける。

「お礼…は要らないんだよな?」
「はい」

苦笑いで答えると月城さんが立ち上がった。

「それならこれから一緒に食事に行こう。俺も今日は仕事が終わったことだし。予定は?」
「あります!」

ないけどあることにした。
だって急に食事なんてどうしていいのか分からない。
それに早く帰れるのなら休んでほしかった。

「じゃあまた今度。栄養ドリンクのお礼も兼ねて」
「いえ、本当にお礼とかは不要ですので」

見返りなんて必要ない。
強く言うと月城さんは困ったように微笑んだ。

「頑固だな。じゃあ言い方を変えよう。俺と食事に行ってもらえませんか?これは完全なる個人的なお誘いです」
「急に敬語とか」

話し方まで変えられると余計に混乱してしまう。

「ハハ。きみは揶揄うと本当に可愛いな」
「揶揄っていたんですか?もう、揶揄わないでくださいよ」

力なく抵抗してみたものの、月城さんはさらに笑う。

「もう……」
「悪い。本気で困らせるつもりはない。ただ俺はきみとこうして会話する時間が楽しくて癒されるんだ」

そう言うと月城さんは私のそばに来た。

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