カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「加藤さん」

名前を呼ばれ、振り返るとひとりの男性が立っていた。

月城和津、30歳。
若くして輸入関連業務で成功し、若手経営者として名を馳せた彼は、叔父である当社社長と統合し、次期経営者となるべく三ヶ月前から出社しているエリート中のエリートだ。

さらに細身の長身、小顔で綺麗な輪郭、切れ長の大きな瞳、シャープな鼻、薄い唇を持ち、中世的だけど男性らしい出立の月城さんは次期社長というステータスを抜きにしても注目の的で、女性社員からの視線を一手に引き受けている。

ただ、関わることが少ない分、どう接していいのか分からず、今も「お疲れ様です」と目下の私が声をかけて嫌な気をしないのか探っているところだ。

「お疲れ様」
「あ、お疲れ様です」

言ってよかったらしい。
目が泳いでしまったことを取り繕うように言葉を重ねる。

「社長でしたらあと30分もすれば出社されますが」

社長秘書として勤めさせてもらうようになってから、社長のスケジュールは1週間分は頭の中に入れておくよう心がけている。

ただ月城さんの反応は薄い。

「それとも別件でしょうか」

社長から秘書課の面々は月城さんのサポートをするように仰せつかっている。

だから聞いてみたのだけど、表情から伺うにどちらも違うようだ。

「きみに話がある。今、少し時間をもらえないだろうか?」
「構いませんが」

『きみに』の部分を多少なりとも強調されたということは本当に個人的な要件。

「もしかして」

月城さんの斜め後ろを歩きながら思いついたのはマッチングアプリの写真だった。

でも月城さんのようなハイスペックなイケメンにマッチングアプリの必要性はないだろうと、首を捻る。
にも関わらず、やはり私個人が声をかけられた理由は写真の件だった。
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