カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「加藤さんは写真を撮るのがとても上手だという話を耳にした」

月城さんは自身の専用の部屋に入り、私が向かいのソファーに腰掛けたのを機に口にした。
まさかの話に驚いて言葉にならない。

「カメラはどこで?」
「え?あ、独学です」

友達の影響で興味を持つようになった。
シャッター音が耳に心地よくて、カメラを構える友達の立ち姿がカッコよくて。

ただ写真部に所属していた友達が持っていた本格的かつ高価な一眼レフのカメラを、母子家庭で母が苦労している姿を見ていた私には簡単にほしいと言えるものではなくて興味や憧れはあってもすぐに手に出来るものではなかった。

5年前に入社して、自分で稼げるようになって、初めてのボーナスで買ったミラーレスのカメラ。
図書館でありとあらゆるカメラの本を借り、無料の講習があれば手当たり次第に顔を出し、友達に教えてもらい、休日のほとんどをカメラに当てがい、腕を磨いてきた。

「独学、か」

月城さんの言葉に頷くと月城さんは少しだけなにか考える素振りを見せた後、立ち上がり、自身の鞄から一冊の写真台紙を取り出し、こちらに差し出して来た。

「拝見します」

月城さんの手から受け取った見開きの写真。
開くとお手本かと思うくらい完璧に作り上げられたお見合い写真だった。
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