カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「他人が気づいて当人が気付かないって鈍感もここまで来るとすごいな」
「ですからなんの話ですか?」
聞けば月城さんは柔らかく微笑み、首を小さく横に振った。
「私もそんな風に自然体で笑いたいな」
服部くんのためにも、相手を務めてくれている月城さんのためにも。
今までの中で使える写真はあるのだろうかと撮れ高が気になった。
「結構自然体で笑っていると思うが?」
「そうでしょうか」
ドキドキさせられてばかりでどんな顔をしているのかわからない。
「月城さんはドキドキしたり緊張したりしないんですか?」
聞くと月城さんは私の手を取り、自身の胸に当てた。
「わかるか?」
分からないと首を横に振る。
すると手が胸元から首筋に当てられた。
「ここならわかるか?」
脈打つ血管に触れて、拍動を手に感じる。
「速い」
「俺も同じなんだ」
月城さんは首筋に当てるようにしていた私の手を下ろし、それから立ち上がり、グーっと体を伸ばした。
「気持ちいいな」
私も月城さん同様、立ち上がり、視界いっぱいに広がる緑に目を向ける。
「きみと今日撮影に来れてよかった」
「私も」
考えることなく、自然と出てきた言葉だった。
きっとこれが私の本音。
ただ向き合って伝えるには恥ずかしいから、お弁当を片付けながら言葉を重ねる。
「私も今日この撮影を月城さんと出来てよかったです。すごく楽しいし、月城さんと近付けた気がします」
日常と違い過ぎる分、このドキドキが非現実的な状況によるもののような気もしなくはないけど、多分、撮影が終わったら『もう少し一緒にいたかったな』『楽しかったな』『また一緒に来たいな』って思うような気がする。
「残りの撮影、頑張りましょうね」
ガッツポーズを決めて見せると月城さんは笑顔で頷いてくれた。