カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「そしたらまた雑木林のところに戻ります」

服部くんに言われて並んで歩く。
数時間前まではそれすら臆していたのに、今は隣を歩くことに抵抗がない。
むしろ居心地が良く感じ始めていた。

「そしたらこの木の近くに向かい合って立ってもらって」

服部くんが指定したのは背の低めの木。
葉っぱ越しに撮影したり、木を背景にしたり、木の幹を中心にして両サイドに私たちを立たせ、手を繋がせたり、色々と構図を変えながら撮影を始めた。

「じゃあ次は足元を撮るので、向かい合って加藤、後ろ手に組んで少し背伸びしてくれる?」

言われた通りに背伸びをすると、月城さんの顔と近づいた。
やってみて初めてキスをする姿勢なのだと気づき、また一気にドキドキしてくる。

「ねぇ…まだ?」

足元だけの撮影とあって顔は月城さんから背けていた。
だから多少耐えられたのに今度は頬にキスをしてくれと言う。

「本当にするの?!」
「出来たら。そうしてもらえると助かる」

服部くんの声が少し弱々しい。
私が何かと言ったり、しぶったりする分、疲れさせてしまっているのかもしれない。

「分かった」

意を決して月城さんを見上げる。

「少し屈んでいただいてもよろしいでしょうか」

言うと月城さんは破顔した。

「な、なんで笑うんですか?!」
「加藤がそんな気真面目な顔するからだろ」

服部くんも笑っている。

「恋人にキスするのに、そんな怖い顔するヤツいないよ」
「じゃ、じゃあどうすればいいのよ」

服部くんに聞くと、月城さんが服部くんにカメラを構えるよう合図し、「俺が先にやるよ」と言った。
予定では私がキスをする役で月城さんはされる側なのに。
でも参考になるなら、と身構えると、月城さんの手が首筋に伸びてきて、突然くすぐられた。

「ひゃあ!くすぐったい!」

身を捩ると次は反対側の首筋を、それから脇腹をくずくられた。

「あははは、もうくすぐった…っ!?」

くすぐったくて笑っているうちに月城さんは私の頬にキスをした。
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