カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「お見事です」
服部くんの声にハッとする。
「素敵な写真が撮れました。というわけで次〜」
服部くんは満足そうに移動する。
私はしなくてもよかったのか、と思ったけど、山の奥の方の雲は黒く、撮影を早めた方が良さそうだ。
「ここが最後です。本当は夕日で撮りたかったけど、雨降ってきたら結局ダメなので。逆光で撮影します」
そう言うと服部くんは月城さんに花束を手渡した。
「これからのシーンはプロポーズを思い浮かべいただければいいです。少しくさい感じになりますが、跪いていただいて」
月城さんも天気が気になっている服部くんの様子に気づいており、すぐにその場に跪いた。
私は月城さんの目の前に立つ。
「なんか新鮮な眺めです」
いつも見下ろされているし、上司を見下ろすなんて通常あり得ない。
思わず笑うと月城さんも笑った。
「咲」
突然名前を呼ばれてドキッとする。
胸に手を当てると花束が差し出された。
「受け取ってくれるか?」
「あ…はい!もちろんです」
一歩前に出て花束に手を伸ばす。
そっと受け取ると月城さんは花束ごと私の手を取り、立ち上がった。
その瞬間、横から太陽の光が強く差し込んだ。
ジッと見つめてくる月城さんを私も見つめ返す。
それから感情の赴くまま瞳を閉じると数秒後に「OK!」という服部くんから今日一番の大きな声が出た。
パチっと目を開けるともちろん月城さんが目の前にいて、微笑んでいた。
「やっと目を閉じてくれたな」
「あっ」
一気に顔が熱くなる。
「キスしようかと思ったけど」
「されなくてよかったです…って、すみません。嫌だとかそういうんじゃなくて。あ、でも雰囲気に飲まれたとか、そういうのでもなくて」
しどろもどろの言い訳に、穴があったら入りたくなる。
でも穴などないので月城さんのスマートフォンに着信があったのをきっかけに服部くんの元に駆け寄る。