カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「加藤、幸せになれよ」
「なにそれ」

聞くと服部くんは私の背中を押した。

「今日は本当にありがとう。あとはお二人でごゆっくり。写真は今度データで送ります!」

手を振る服部くんから、月城さんの方を向くと月城さんは私のそばに来てくれた。

「送るよ」
「あ、いえ」

行きも月城さんが乗せて行ってくれると言ってくれていたけど、遠回りになってしまうからと断ったのだ。

「電車とバスで帰ります…って、月城さん?!」

月城さんは私の言葉など無視するかのように手を取り、駐車場まで歩き出した。

「まだ終電って時間じゃ全然ないですし」

そう言っても離してくれない。

「雨もまだ降りそうにないので大丈夫です」
「そういう問題じゃない」

月城さんは立ち止まり、私を見下ろした。

「キスを受け入れてもらえそうな状況で、そのまま帰すわけないだろう」
「あ、えっと…その」

前触れもなく触れられたくない話題にまたしどろもどろになってしまう。

「ゆっくりでいい」

月城さんの優しい声が困惑している私の耳に届いた。

「ゆっくりで。答えは今日出さなくてもいいから。いつか聞かせてくれればいい。俺の気持ちはそう簡単に変わらないから」

逃げたり、避けたりはしてはいけない。
目を閉じたのは私自身だ。
月城さんへの気持ちを伝えなければ。
でも月城さんの気持ちに応えたら恋人になる。
恋人になれば『やっぱり色目使ったんじゃない』と噂や陰口を叩かれかねない。 
それを言われて跳ね返せるだけの強い気持ちと覚悟はまだ出来ていなかった。
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