カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「お疲れ様です」
「お疲れ様。ねぇ、加藤さん。加藤さんに相談があるんだけど」

手招きされて給湯室に入る。

「どうかなさいましたか?」

口火を切ると加藤さんは周りを気にするようにしてから話を切り出した。

「月城さんと接点を持ちたいの。食事に行けるよう取り計らってくれない?」

なぜ?と首を傾げると小さな声で神崎さんが言う。

「私と月城さんがお似合いだってみんなが言うから」
「みんなが」

復唱すると神崎さんは照れくさそうに、でも満足そうに頷いた。

「マッチングアプリに登録したのではないんですか?」

聞くと登録はしたものの、月城さん以上の相手はいないと気付き、周りの後押しもあって登録は解除したらしい。

「だから、ね、お願い。加藤さん、月城さんと仲がいいじゃない?」
「私はただの秘書です」
「そんなことないでしょう?」

神崎さんが鼻で笑った。
美人が鼻で笑うとすごく嫌味っぽくて嫌な気持ちが胸に渦巻く。

「月城さんは加藤さんの前でだけ笑うって噂よ。妹みたいに可愛がっているって」
「妹、ですか?」

おかしな陰口よりはマシだけど。
嬉しくはない。

「妹じゃないので」
「え?何か言った?」

神崎さんに顔を覗き込まれて真っ直ぐその綺麗な瞳を見て言う。

「私は月城さんの妹ではないし、妹扱いされたこともありません」
「じゃああなたは月城さんのなんなの?どうして親しげにしているの?月城さんはどうしてあなただけを特別扱いするの?」

本当に聞きたいことはこれだったのだろう。

「秘書です」

そう逃げることもできた。
でもまたあらぬ噂を流されるくらいなら正直に答えた方がいい。

「月城さんは私がアプリの撮影をしていることで目をつけたそうです。それに社にとって有益な形で応えられたので特別扱いされています。でも謝礼は受け取っていません。ですから余計なことはおっしゃらないようにしてください」

予防線を張るように言えば神崎さんは不快感を露わにするように眉根を寄せた。
そして神崎さんが何かを言う前に月城さんへの想いを告げる。

「ちなみに私も月城さんのことを好きなので。協力は出来かねます」
「なるほどね」

神崎さんは背筋を伸ばして気だるそうに壁にもたれかかり、腕組みをしてこちらを見た。
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