カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました

「戻りました」

なるべくいつも通りに声を掛けてから自席に座る。
でも月城さんは私の声色で様子が違うことに気付いたようだ。

「何かあったか?」

そう聞いてきた。

「特には…あ、でも秘書課の神崎さんが一緒に食事に行きたいそうです。いかがなさいますか?」

スケジュール表を確認しながら言うと月城さんは私の元にやってきた。

「その顔。神崎さんが俺に気があると知って不快に思った…って顔じゃないよな。なにがあった?」
「それは」

なんとなく月城さんには知られたくない。
だから首を横に振り、なんでもないとアピールする。

「俺じゃ頼りないか?」
「そんなことは」

ないと顔を上げると月城さんが優しい眼差しでこちらを見ていて胸がキュッと締め付けられた。

「すみません」

謝ると月城さんはそれ以上、言ってはこなかった。
ただ。

「こっちにおいで」

月城さんは席に戻るなり、私を手招いた。

「なんですか?」

立ち上がり、そばに行くとパソコンの画面を見るように指差された。
月城さんの横に立ち、覗き込むと服部くんからの社内メールが届いていて、フォトグラファーのテストに合格した旨が書かれていた。

「わぁ!やった!」
「服部に電話したらきみの方にも連絡したと言っていたよ」

気になってスマートフォンを見ると確かに連絡がきていた。

「お祝いしてあげなきゃ」
「そうだな。今度一緒に買いに行こうか」
「いいんですか?」

聞くと月城さんは笑った。

「いいもなにも。デートの口実だよ」
「なるほど。でも」

万が一、誰かに見られて、また何か言われたら嫌だ。
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