カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「ごめん。知らないフリをすればよかったんだが放っておくことも出来なかった」
そう言うと月城さんは私の体を離し、身を屈めて目を見て続けた。
「俺からひとつ提案があるんだ」
「なんですか?」
ドキドキしながら答えを待つ。
月城さんははっきりと告げた。
「フォトグラファーになってみないか?」
「私が、ですか?」
聞くと月城さんは頷いた。
「そうだ。プロになってきみの実力を見せつけてやるんだ」
思ってもみたい提案に驚きを隠せない。
ついさっきまで秘書だと紹介されて来年度も秘書として働くつもりで、あの男の子が受かるかどうかも気になるところだったのに。
まさかフォトグラファーになれ、と言われるなんて。
たしかにきちんとした形で腕前を証明出来たなら、男ウケする写真ではなく、腕がいいから撮れるのだと納得してもらえるかもしれないけど。
「プロになるつもりはないんです。それだけで食べていけるのはひと握りですし、二足の草鞋を履いて中途半端なことはしたくないので」
服部くんが今後どうするか正確なところはわからないけど副業を禁止されていない以上、辞めることはないだろう。
「経済的な問題か」
月城さんは呟くように言った。