カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「もし」
月城さんが口火を切った。
「経済的な問題でプロとして働きたいのを躊躇しているのなら俺のところに来ればいい」
「それはどういう意味ですか?」
隣を見ると真面目な顔して月城さんは答えてくれた。
「自分で言うのもなんだが財力はある。今の生活を維持したまま、きみの夢を応援することくらいなんてことない。むしろそうさせてほしい」
「それは贖罪ですか」
聞くと月城さんは困ったような顔をした。
「それもあるかもしれないな。特にきみの写真は武地も気に入っているから」
「武地さん?」
突然出てきた名前に驚く。
でも武地さんこそが鉄道仲間なのだと知った。
「疎遠になったのでは?」
「一度離れたが」
大事にしたいと思える仲間の元に戻った月城さんをステキだと思った。
「咲」
月城さんに名前を呼ばれて海から隣を見る。
「もう一度聞く。フォトグラファーへの道に挑戦してみないか?」
「今の仕事を辞めて、ですよね?」
「不安か?」
聞かれて頷く。
「逃げるみたいじゃないですか?」
「逃げたっていいんだ。それに咲がフォトグラファーとしての道を歩み始めたら社のホームページや社内案内の写真を頼むつもりだ。そうなれば咲の実力は本物だったと見せつけることが出来る」
「ご自身の立場を最大限に利用しますね」
フフッと笑うも月城さんの真面目な顔は変わらない。
「咲のためなら利用出来るものはなんだってする。俺がそういう人間だって知っているだろう?」
「はい。あと諦めが悪いところも存じ上げております」
だからこの押し問答の答えはひとつしかない。