カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「私、挑戦してみます」
言ってみると案外しっくりきた。
胸に渦巻いていた靄が消えてスッと晴れていく。
「フォトグラファーになります」
本当は心のどこかでずっと思っていたのかもしれない。
カメラ一本で頑張ってみたいって。
秘書という仕事は好きだし楽しいしお給料ももらえるから現状が一番だと思っていたけど、言い聞かせていただけだったのかも。
そう思えるくらい清々しい気分になった。
「でも情けは無用です。自分の力で。頑張ってみます」
「わかった」
月城さんは私の頭を撫でてくれた。
「全力で応援する」
「ありがとうございます」
満足そうに微笑む月城さんの笑顔を見て、別の覚悟も出来た。
「月城さん」
月城さんの目をまっすぐに見つめてこの気持ちを言葉にする。
「私、月城さんのことが好きです。すごく、すごく好き…っ?!」
月城さんは私の体を抱きしめた。
「よかった。こんな話をして引かれたらどうしようかと思った」
「引いたりなんか…でも!」
月城さんの体を押し戻し、続きを口にする。
「私、月城さんの経済的なバックアップ欲しさに覚悟を決めたわけではないので。そこはわかってくださいね。しつこいようですが情けは無用なので」
「ハハ。そんなことは初めから分かっているよ」
月城さんは笑い声で一蹴してくれた。
ホッと胸を撫で下ろす。
「でも正直それでも構わないと思っていた。きみが俺のそばにいてくれるのなら。だから俺の私欲も含めてフォトグラファーの夢を少し強引に推してしまったんだが。後悔は」
真剣な眼差しに胸がドキッとする。
胸のうちも読まれそうだ。
でも後悔はないと首を横に振る。
「時間は掛かるかもしれないし、道が定まるまでご迷惑をお掛けするかとは思いますが、月城さんのそばでフォトグラファーになっていこうと思います。そして陰口叩いた人たちをギャフンと言わせてみせるような写真を撮ります!」
決意表明のように拳を握ってしっかりと伝えれば月城さんは私の拳を優しく包み込んでくれた。