37℃のグラビティ
やっぱり新海は来ないんだ……アタシが心で呟いた時。


「あれ? 彩人くんは?」


声に出して訊いたのは、お母さん。


「一緒に来たんですけど、あそこで電話してます」


新海のお父さんの視線を辿ると、大きな白い柱に凭れて、携帯電話で誰かと話す新海がいた。


遠目だからよくわからないけど、俯きがちに、なんだか優しい顔して、笑ってる様な……?


そんな新海の姿を見て、電話の相手は彼女だと直感する。


ふ~ん……新海もあんな風に、優しく笑う事、あるんだ……?


初めて見る穏やかで優しい新海の笑顔に、そんな事を思った。


電話を終えてこっちに向かって来る新海に、アタシは気付かないふりを装う。


「来ないかと思ってたけど、来たんだ?」


朋希のゲームを覗き見ているアタシの頭の上から、新海の声が降って来て、顔をあげた。


「その言葉、まんまそっくり返す」


「実際、来ないつもりだったんだけど、沖縄からの帰り、大阪までの飛行機代出してやるからって、親父に釣られた」


沖縄から新海は、東京じゃなく、大阪の彼女のところに行くって事ね……納得。
< 172 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop