37℃のグラビティ
アタシは面倒臭いと思いながら、大きな花柄の白いワンピースに、ラメ入りの深い青のカーディガンを羽織ると、朋希と一緒に隣の部屋の新海を誘って、ホテル内のプライベートビーチへ。


ホテルの敷地は本当に広くて、移動はカートかリゾート内を走っているバスを利用しなければならないんだけど、アタシ達の部屋は、ちょうどビーチに近くて、徒歩で充分な距離だった。


「北川のその格好、何?」


近付くビーチに、目を丸くした新海が、思い出した様に訊く。


何か言いたげな新海の視線に、今更恥ずかしくなって、月をモチーフに作られたネックレスを触りながら、早口で答えた。


「泳がないからいいの」


「泳げないんじゃなくて?」


そう、だいたいのスポーツは得意だったりするアタシも、泳ぐ事が大の苦手っていうか……泳げないっていうか……?


「柚は、昔っから泳げないんだよなー!?」


このぉ、クソ朋希、余計なことをっ!! 知られたくなかったアタシの一面をおかげで新海に知られたじゃんよ!?


「水着、持ってこなかったのか?」


「一応、持ってきたけど……」


「じゃあ、俺があとで教えてやるよ。って事で、荷物見てて」


言って新海は、アタシの返事も聞かずに、朋希と手を繋いでビーチへと走り出して……


アタシは返事をしそこねたまま、パラソルの下にレジャーシートを敷くと、荷物番をしながら、新海とはしゃぐ朋希の姿を見ていた。
< 175 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop