37℃のグラビティ
虫の声に交じって、微かに波の音がする。


ビーチが近い事を思い出したアタシは、夜の砂浜に行ってみる事にした。


ビーチに向かって歩くアタシの背後から、駆けて来る足音に思わず振り返る。


「随分冷てぇじゃん?」


新海が悪戯に笑って、アタシの横に並んだ。


「彼女と電話中に、誘えるわけないじゃん」


「もともと誘う気がなかった」とは、さすがに言えなくて、アタシはごもっともな言い訳をしてみた。


「まぁ、いいや。で? どこ行くつもり?」


「ビーチ」


「いいじゃん。夜の海。でも、よく女ひとりで行く気になるな? 怖くねぇの?」


「別に」


そんなアタシの答えに、新海が鼻を鳴らして笑い出す。


「何が可笑しいの?」


「北川らしいと思ってさ」


そんな新海の言葉を深追いする事もなく、アタシは不機嫌な呆れ顔をしながら、ビーチへと足早に歩いた。
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