37℃のグラビティ
新海は砂浜も気にせずゴロンと横になると、空を仰ぎながらアタシに訊く。


「北川は好きな(やつ)、いねぇの?」


そんないきなりの問い掛けに、心の中で動揺しながらも、


「いない。恋愛なんて面倒だって言ったじゃん」


相変わらずのポーカーフェイスで、嘘と本音の両方で答えた。


「才色兼備の頭の中は、やっぱ恋愛より勉強ってやつ?」


「何それ、嫌味?」


可愛げのないぶすっくれた顔とセリフで、恨めしく新海を見遣ると、新海はからかいの眼差しを一瞬だけアタシに向け、それをすぐまた空へと戻した。


「勿体ねぇと思ってさ……」


「『勿体無い』って何が!?」


「綺麗で頭のいい北川なら、その気になれば、引く手あまたなんじゃねぇの?」


「そういうこと、よくサラっと言えるね?」


「『そういうこと』って?」


「『綺麗で頭がいい』とか」


「あれ? もしかして、照れてる?」


「は? なわけないじゃん。バッカじゃない!?」


そう言ったけど、本当は図星。


だってあんまりなんでもない事の様に、新海がアタシに「綺麗」なんて言葉を言うから、たとえ社交辞令だとしても、変にドキドキしてしまう。
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