37℃のグラビティ
テーブルには、ノンアルコールシャンパンとシャンパングラスの他に、オードブルまで並んでいる。


「どうしたの? これ」


「親父が注文してたみたいで、さっき届いた。だいたい俺ひとりで、こんなに食えねぇっつの」


「二人で食べても残るんじゃない?」


「確かに」


新海は相槌を打つと、軽快な音を立ててシャンパンを開け、注がれたグラスをそれぞれ手に持った。


「それじゃ、俺の一周忌に献杯」


グラス同士が小さな音を立てた後、グラスを口にした新海に言う。


「お葬式でもあるまいし、献杯はないんじゃない?」


「葬式とかわんねぇよ。あの日までの俺は、死んじまってんだから」


自嘲気味に笑って言った新海の言葉に、浮かべていたアタシの笑顔も、しだいに乾く。
< 214 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop