37℃のグラビティ
その日の夜。


自室の机の上、広げた留学の資料を見る手を休め、スマホに手を伸ばして、新海にLINE電話をかけようとした指を止めた。


アタシの頭の中にふと、職員室で見た女子生徒の顔が浮かぶ。


手にしていたスマホが、以心伝心のように新海からの着信をつげて、アタシは小さく深呼吸すると、その電話に出た。


「もしもし?」


『留学の資料見た? その留学の資料、柚にやるよ』


「いいの?」


『俺はまた兄貴に送ってもらえばいいし。留学する国、決めた?』


「オーストラリアとイギリスで迷ってる」


『奇遇じゃん。俺もそのふたつで迷ってるとこ』


クリスマス・イヴの時、新海に進路の話を振られて、「留学を考えてる」って話をしたら、実は新海も留学を考えていたらしく、すでに取り寄せていた資料をアタシに貸してくれたんだけど……


まさか留学したいと思っている国まで一緒だとは思わなかったアタシは、その言葉にとても嬉しくなって、冗談めかして思わず笑った。


「電話で進路の話するとか、アタシ達も大人になったね?」


『ついこの間転校してきたと思ってたのに、あっと言う間に3年だもんな』


新海が何気なく言った『転校』という言葉に連想されたのは、今日の職員室での出来事。
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