37℃のグラビティ
大学の話の後、何を思ったのか、新海が訊いた。


「錯覚ってさ、普通は一瞬じゃん? 持続する錯覚って、あんのかな?」


話の意図がわからず、アタシは小首を傾げる。


「柚だから言うけどさ……」


やけに改まったトーンで、新海がそんな前置をした。


「陽織見るたび、元カノとダブる……」


新海が呼び捨てた名前は、続いた言葉ですぐに、吉住さんだとわかったけれど……


「陽織?」


わざとわからないフリをした。


「あぁ、吉住のこと」


これから新海が話そうとする事に、胸の中がざわつく。


「昨日、吉住さんと一緒だったんだ?」


詮索するつもりなんてなかったはずなのに……無意識にも、新海に訊いていた。


「吉住の家、実はこのマンションでさ。屋上でたまたま会ったりして話すうちに、かかわる様になって……吉住に会うたび、俺の頭ん中、いつの間にか元カノとすり替わってて……違うって何度言い聞かせても、また同じ幻覚を見る」


さり気なく告げられた事実に、アタシの思考はすぐに追いつかなくて、黙ったままのアタシに、新海が続けた。
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