37℃のグラビティ
「じゃあ、悩む必要も深く考える必要もないよ」


「確かに」


横顔の新海が小さく吹き出し、相槌を打って笑ったけど……新海はきっと気付いていない。


悩んだり考えたりするのは、どうでもいい事じゃないからだってこと……


新海は自分を守ってるって言ったけど、戸惑う心が無意識に、そう思い込ませているだけ……


新海より先に、それを理解してしまったアタシは、自分の心に見えない蓋をまた重ねた。


アタシの方がよっぽど新海より、自分自身を守ってる……そんな気がした。


旅行疲れがまだ抜けきらない新海を気遣うフリで、アタシは帰る事にする。


新海の気持ちが、本人も気付いていないところで、吉住さんへと向けられている事が、悲しかった。


ううん、違う。


「悲しい」と言うより、きっと「悔しい」と言う方が、正しい表現なのかもしれない。


だけどそんな風に思う自分を認めたくなくて、ひとり必死に気持ちを掻き消していた。
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