37℃のグラビティ
「はい。鍵」


新海が鍵を受け取ると思った瞬間、アタシの手を掴んだ新海は、それを強く引き寄せると、腕の中に抱きしめた。


懐かしい温もりと香りに包まれて、軽い眩暈さえ感じる。


気を抜いたら、今にも倒れてしまいそう……


鼻の奥がツンとして、目頭がじんわり熱くなる。


あぁ……アタシは今でも、この人が本当に好きなんだなぁって……


静かにそう思った。


訊きたい言葉が、心の中にたくさん溢れる。


だけど、今それを口にしてしまったら、この瞬間さえ消えてなくなりそうで……


アタシは新海の腕の温もりに、ただただ大人しく体を預けていた。


「ただいま」


新海のそんな一言と、抱きしめる腕の強さが増した事で、何故かそこにすべての答えがある様に思えた。


「おかえり」


体に回した両手で、アタシも新海を抱きしめる。


新海と離れ離れになったからこそ、アタシ気付けたんだ……


例え離れたとしても、消えてなくならない想いも、あるんだってこと……


そう思ったら「別れ」は神様が用意した「サプライズ」にさえ思えてくる。


だって……


それを乗り越えたアタシ達には、新しい未来(あした)が、きっと待ってるから――



【END】
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