37℃のグラビティ
episode1:恋の忘れ方?
「お父さんとか、お母さんとか、何時頃帰って来るの?」


覚えた違和感に、アタシは何気ない言葉で訊ねていた。


「さあね。仕事でほとんどいないからな」


新海は手にしていた雑誌に目を落したまま、なんてことなく言う。


「そうなんだ……」


何となく深追いしてはいけない雰囲気を察知して、軽めに相槌を返すと、新海が話題を変えた。


「お前、転校これで何回目?」


「小学校の時に3回、中学で1回、高校で1回だから5回目。新海くんは?」


「小、中、高で、1回ずつ」


「そっか。転校ってさ、何回しても慣れないよね」


「そんなもん、慣れたくもねぇよ」


「確かに」


アタシは小さく吹き出して苦笑い。


そして流れた沈黙に、掛け時計の秒針が、やけに響いて耳に届く。


居心地が悪いというわけじゃない。


ただ新海が隣にいると、やっぱりどこか、妙に緊張してしまう。


だけど今日はそれ以上に、アタシはひとりになりたくなかった。
< 46 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop