37℃のグラビティ
新海は何も答えないまま、立ちあがって大きく伸びをすると……


何を思ったのか、ひとり梯子を下り出した。


引き留めたくても、声にはならない。


最後の一段を後ろ向きのまま、軽々ジャンプする様に梯子から下りると……


ジーンズのポケットに手を突っ込んで、新海がアタシを見上げた。


「陽織」


いきなり名前を呼び捨てにして、ポケットから出した何かを投げようとするから、キャッチの体勢を作った。


新海がアンダースローでゆっくりと投げた物が、アタシの両手にうまく収まる。


捕まえた硬い感触に、合わせた手を開くと……


アタシの掌には、鍵?


屋上(ここ)のスペアキー。それで好きな時、開けていいから」


「ホントに!? ありがとう」


「あと、お前のこと、今度から『陽織』って呼ぶ」


「え?」


「その方が、友達みたいじゃん」


嬉しさで胸がいっぱいになって、少しでも気を抜いたら、涙がこぼれてしまいそう……
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