この剣は守る為に
夜。

ミーアの手料理というこの上ない名誉な事も経験し、タッカーはその日を終えようとしていた。

…ミーアは食器の片づけを済ませ、今は二階で部屋の掃除をしている。

そんな事はしなくてもいいと言ったのだが、突然転がり込んで何もしないのは申し訳ないと、ミーアが引き受けてくれたのだ。

…気立てが良くて、料理も美味くて、あんなに可愛らしくて。

その上自分のような名もない鍛冶師を頼ってくれる。

夢のようなひと時だった。

明日の仕事に備えて準備を一通り済ませた後、二階へと上がったタッカーは。

「……」

椅子に座ったまま、ウトウトと舟を漕いでいるミーアを見つけた。

勝手の違うタッカーの家という事もあって、気疲れしてしまったのだろう。

今にも椅子から倒れ込んでしまいそうだ。

…まるで子供のようなあどけない寝顔。

見ているだけで幸せな気分に浸ってしまえるが、見ているだけではミーアが風邪を引いてしまう。

この時期は夜にもなると冷え込む。

椅子でうたた寝などしては、明日の朝には熱で寝込んでしまうだろう。

「ベッド…ベッドに運ぶだけだから」

誰に断っているのか。

自分でもわからないまま、ミーアを抱き上げる。

軽くて、柔らかくて、温かいミーアの体。

髪の甘酸っぱい香りが、タッカーをクラクラさせた。

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