花姫コネクト
「そろそろ夕方になるね。あと、もうひとつくらい乗れるかな?」

 スマホを手にした乙谷さんが、パーク内の地図を広げる。

「じゃあ、最後にアレ乗らない?」

 ふふっと笑みを浮かべる河合さん。
 そのまま姫先輩と乙谷さんの腕を引っ張り、目の前にある観覧車へと向かう。

 しまった、出遅れた。

「ちょっと待って……」

 追いかけようとする足が止まる。後ろから手を掴まれて、それ以上動けなかった。

「……えっと、どうした、の?」

 茶色の髪がさらりと揺れて、高嶺くんがこちらを見つめている。

「僕と一緒に、乗ってくれないかな?」

 ぱりん、と心の音が鳴った。ガラス玉が割れてしまったような、(はかな)げな音。

 目の前にいる高嶺くんは、いつもの友達としての顔じゃなかった。

 観覧車に揺られながら、お互いに黙って景色を眺める。断れなかった。嫌じゃないし、むしろ高嶺くんのことは好き。

 だけど、それは友達としてで、こういうのはなんか違う気がする。

「大路さんは優しいね」
「えっ、やめてよ。そんなことない。全然、ダメ人間で……」
「だって、困ってるのに、こうして付き合ってくれてるでしょ?」
「それは……」

 バレている。高嶺くんには、隠しても全てお見通し。

 落ちてくる髪を耳にかけて、小さく息を吐いた。逃げ場のない空間が、より緊張をあおる。

「ごめんね。大路さんの気持ち知りながら、今から無神経なこと言うと思う」

 チュニックを握る手が汗ばんできた。よりグッと力が入る。
< 108 / 133 >

この作品をシェア

pagetop