花姫コネクト
 もしかして、姫先輩と河合さんのこと?
 二人は両思いだとか、それとも別の秘密でもあるのかな。

 高嶺くんの様子がいつもと違うから、余計な詮索(せんさく)ばかりしてしまう。

「大路さんの笑顔って、その場を華やかにする明るさがあるよね」
「……え? ありがとう」

 面と向かって改めて言われると、なんだか照れくさい。

「一年の時、この子が咲かせる花はどんな花なんだろうって思ったことがあった。きっと、明るくてキレイなんだろうって。二年に進級して、よく目で追うようになって、大路さんはどんな人に惹かれるのかなって考えて」

「えっ、ちょっと待って?」


 想像してた話と、全然ーー。

「いつの間にか好きになってた」

 生活音のない空間に、とくとくと鼓動を刻む音だけが響く。

 暮れ始めの空の青さと紫の花が、絶妙な美しさを映し出して、私の胸ににじんでいく。

 美しいものは、いつだって現実味がなくて、触れようとすれば消えてなくなってしまう。

「友達になれて嬉しかったし、それ以上は望んでなかった。でも、ずっと姫川先輩に嫉妬してた。正直、今もしてると思う」

 少しずつ空が離れて、街に近付いていく。
 黙って聞くことしか出来ない。

「それなのに、あの人に向けてる笑顔が一番好きなんだ。ほんとに幸せそうに笑ってるから」
「……高嶺くん」
「だから、これでほんとに最後。ごめんね、いろいろ」
「謝られるようなこと、なにもないよ! 私がお礼を言わなきゃいけないくらい」

 たくさん助けてもらった。あの教室に高嶺くんがいたから、今まで頑張ってこれた。

 整った顔を手で覆いながら、一度ため息をついて。ためらいつつ、高嶺くんの視線が逸れる。

「充電ないって嘘ついたり、帰りの方向(いつわ)ってたのに?」
「えっ、なんのこと?」

 ハテナマークをつける顔を見て、高嶺くんはおかしそうに笑う。とても無邪気で、小さな子どもみたいに可愛らしい。

「ううん、なんでもない。真っさらな友達として、これからよろしくお願いします」

 差し出された手を、両側から優しく握る。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 空を飛んでいた私たちは、地上へ降り立った。みんなが下で待っている。

 高嶺くん、今までいっぱいありがとう。
 そして、さようなら。
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