花姫コネクト
lesson7. さよならは言わないで下さい
 夏休みが明けて、二学期が始まった。
 えだまめと花姫のキーホルダーが、通学かばんの持ち手に仲良く顔を並べている。

 席替えをして、高嶺くんは窓側、私は廊下側と真逆に離れた。前よりも、話す機会が減った気がする。

 ショートホームルームが終わり、来週に行われる文化祭の準備が始まった。うちのクラスは、定番のお化け屋敷。

 切られたダンボールに絵を描くため、絵の具を用意していると、後ろ側から笑い声がしてくる。

 彩葉ちゃんが、新聞で井戸を作っているのだ。パレットに出した黒を筆につけ、ひたすら塗りつぶしながら、内心そわそわしている。

 いつ言おうか。そればかり考えていた。

 静かになった時を見計らって、振り向いた。

「あの、そこの黄色……もらっていい?」

 少し驚いたような目をして、彩葉ちゃんが足元に視線を落とす。

「あ、気付かなくてごめんね。はい」
「ありがとう」

 久しぶりに、話すことが出来た。それだけで、胸がキュッと熱くなる。

 このままでいいのか、ずっともやもやしていた。
 受け取った絵の具を軽く握り締めながら、小さく息を吸って。

「もう、ちょっとで終わるから、よかったら……そっち手伝うよ?」
「えっ、いいの? でも……」
「彩葉ちゃん、こっち来て」

 話を(さえぎ)るように、廊下から彼女を呼ぶ声がした。
 ごめんね、とささやくほどの言葉を残して、さあちんの元へ駆けて行く。

 ふんっとポニーテールをなびかせて、背を向けたさあちん。

 ふわりとした茶色のボブを気まずそうに触りながら、彼女の隣へ立つ彩葉ちゃんから、そっと目を離した。

 少しだけど、前に進めている。そんな気持ちが、すぐに砕かれることになるとは思わなかった。
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