花姫コネクト
lesson1. 恋したいです
 ふたりきりの静かな部室。

 筆記用具とノートを片付けていると、長く下ろしたセピアの髪がふわっと浮く。

 目の前に手が出てきて、思わず退(しりぞ)いた体が壁の前で固まった。

 私を囲うようにして壁へ手を付く男子は、同じ新聞部の姫川(ひめかわ)(きょう)センパイ。

 大人っぽい瞳でこちらをじっと見つめながら、何か言いたげな顔をしている。

 大路(おおじ)(はな)。中学二年にして、初めて壁ドンとやらを経験した。

 知ってはいたけど、不意打ち過ぎて少し焦ってしまう。

 それに眼差しが鋭いから、妙な威圧感(いあつかん)があるのだ。


「あの、姫センパイ? ちょっと近すぎます」
「……そうか?」


 背丈が一七八センチある姫先輩と、一五六センチの私では視線が全く違う。

 見上げなければ、ちょうど(のど)ぼとけあたりに目がいく。

 中学三年のわりに、まだ声変わりが来ていない姫先輩。

 他の男子より少し高めの声は、親近感が湧きやすくて話しやすい。

 そんなことを考えていると、クイっと顎を持ち上げられて、必然的に目が合うように仕向けられた。
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