花姫コネクト
 淡墨桜(うすずみざくら)のようなしとやかさを持つ花が、乙谷部長の横でゆらり揺れた。

 少しだけ開いている花びらは、一度は恋を経験したことを表している。

 男子に興味のなさそうな乙谷部長も、誰かを好きになったことがあるんだ。

 いつも良くしてくれるから、勝手に近く感じていたけど。なんだか遠い存在に思えて来た。

 じっと見つめていたのを気付かれたのか、優しい目が首を傾げる。

 だから慌てて紙へ視線を落として、ひたすら記事のことだけを考えた。

 早く花を咲かせないと、あっという間に取り残されていく。


「ああー、腰痛てぇー。やっと終わった」


 堕落した声を出す姫先輩に続けて、他の男子部員もドミノ倒しのように机へ伏せていく。


「みんなお疲れさま。ようやく完成したということで、これから少しお茶会しない?」

「お茶会……ですか。申し訳ないのですが、もうすぐ塾があるので帰らせていただきます」

「僕もゲームする予定があるから、ごめん」


 乙谷部長の発言に、二年生の二人は口を揃えたように図書室を出て行った。

 これは気まずい。眼鏡がギラリと光る時は、部長の機嫌が悪い証拠だ。


「じゃあ、俺もー」

 カバンを手にして立ち上がる姫先輩の首根っこが、ぐいっと引っ張られる。


「なっにすんだよ」

「どこ行くの? 姫川くんは強制参加。当然でしょう。これは部長命令よ」

「なんで……」

「それと、もちろん王子さんもだからね」

「は、はい」

 乙谷部長の気迫にたじろぎながら返事をすると、姫先輩は観念したようなため息を吐いた。
< 23 / 133 >

この作品をシェア

pagetop