花姫コネクト
「なんでって……、楽しいから?」

 少し首を捻りながら、目の前でしゃがみ込む。

「華は楽しくないのか? 俺といるの」

 ガラス玉みたいにキレイでまっすぐな瞳が向けられた。

 そんな言い方、ずるいよ。
 いつも〝王子〟ってふざけた呼び方をするくせに、不意打ちで名前呼びになるなんて。

 それ以上に、一緒にいて楽しいと思ってくれていたことに驚いた。


「……楽しくないわけじゃない」

 とがった唇から、可愛くない言葉が出た。
 素直になれない私の声は、蝶の羽音よりも小さくて、聞き取れなかったかもしれない。

「なら、もういっかい目閉じて」
「……どしてですか」
「いいから」

 わけも分からず(まぶた)をつむる。

 何が起こるの? 次はゴミでも付いていた?

 ぼわんと頭の中に浮かび上がった少女漫画の展開を慌てて消して、さらに強く瞼の上下を結ぶ。

 迫り来る気配とベッドに手を付く(きし)む音。少しばかり緊張している。
 これって、ドキドキしている証拠なのかな。

 振動音が近付いて……、羽? 飛ぶ?
 瞬時に鳥肌が立つ。嫌な予感がして、恐る恐る開いた視界に写ったものは。


「何年かぶりに見たわ、コイツ」

 テカテカと黒光りした史上最強の生命力を持つ、出会ってはならない物体ナンバーワンだった。

「ひ、ヒィィィィーー! もうヤダ、帰るー!」
「あっ、おい待て。ノート」
「その手で触んないで下さい!」
「ちゃんとティッシュで挟んでるだろ」
「そうゆう問題じゃない! 早く、早く(ほおむ)ってーー」

 やっぱりありえない。
この人で花を咲かせるなんて、一生かかっても不可能な気がする。

 姫先輩との勉強会は、いろんな意味で生きた心地がしなかった。
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