花姫コネクト
***

『図書室では静かにして下さい』

 この薄い張り紙に目を止める人は、一体どれくらいいるだろう。
 存在感のない細い線が連なるだけで、全く意味を成していない。

 貴重な昼の時間を、勉強に当てようと意気込んだのが間違いだった。


「えー、彼女いるのに女子と2人で遊ぶなんてサイテー。そんなやつ別れちゃいなよ」

「そうだけど、まだ浮気されたって決まったわけじゃないし」

「いやいや、ハグしてたんならもう完全にアウトだよ」

「結局、浮気ってどこからライン……」

 カチリとシャーペンの芯を出す手が止まる。

 ……なんなの、これ。同じ中学生の会話なの?

 たしかに周りにも増えては来たけど、中学で付き合うって今どき常識なのかな。
 ついさっきまで、都会の話だと思っていた。

 参考書とノートを閉じて席を立つと、斜めに座る三年生らしき女子たちがクスクス笑う。
 内緒話しをしながら私の耳元を見ている気がして、赤くなった頬を隠しながら足早に図書室を出た。


「ああーー、もうやだ……」

 勉強道具を抱えたまま教室の机へ伏せる。

 単にうちわ話で笑っていただけかもしれないのに、全てが自分へ向けられたものに聞こえるから。

 お前のせいだぞ、と小さな蕾を手のひらで覆った。

「大路さん、大丈夫? なにかあった?」

 心配する声が降って来て、身を縮めたまま隣を見上げた。
 優しい目をした高嶺くんが、こちらを見ている。

 少し茶色っぽい髪に、ガラス細工のような瞳。鼻も可愛らしくて、唇の形も整っている。改めて眺めてみると、人形みたいにキレイ。

 それでいて性格も良いなんて。
 天は二物を与えずというけど、世の中は不平等だ。二物どころか、高嶺くんはそれ以上を持っている。

 弓道の県大会で優勝した実績があって、さらに学力の成績も優秀なのだから。
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