花姫コネクト
 午後五時の音楽が鳴って、そろそろ帰ろうと高嶺くんがドアの前に立つ。

 怒っているわけではなさそうだけど、いつもより声のトーンが低かった気がして。
 触れないようにしていたけど、もしかして……。


「……開かない」

 引き戸に手をかけたまま、高嶺くんが動きを止めた。

「開かないって、ドアが?」
「そう。閉じ込められたみたい」

 ええ、と困惑の声を発しながら取手を引いてみるけど、微妙にガタつくだけ。まるで壁を相手にしているようだ。

 とりあえず誰かに連絡しようと言われて、ポケットを探り出したところで気付く。

「ごめん……。スマホ、教室に忘れちゃって。かばん、机の横に引っ掛けたまま」

 とりあえず移動しようと、必要なものだけ持って出てきたことを忘れていた。

「じゃあ、僕の……」

 ポケットに手を入れながら、ああ……と高嶺くんが唇を閉じる。

「ごめん、僕の充電切れてたんだ」
「ええーー?! ど、どうしよう。うちの学校に、警備員さんなんていた?」
「警備員……? は、いないと思うよ」

 机にかばんを置いて、とりあえず落ち着いて座ろうと(うなが)される。

 ちょっと、待って。どうしてそんなに冷静でいられるの?
 鍵を掛けられたということは、二人きりで夜を明かさなくちゃならないということだよね?!

 よく知ってる。少女漫画では、お決まりのハプニング展開だから。実際に自分が経験者になるとは思わなかった。

 無言でひとつ挟んだ席へ腰を下ろす。高嶺くんも話さないから、沈黙の空気が流れる。


 十四年生きて来て、人生最大のピンチと言っていいかもしれない。

 まず食べ物がない。
 かばんには食べかけのクッキーがあるけど、今は教室に置き去りだし。ここにあるのは、半分しか残っていないパックのミルクのみ。

 トイレやシャワー、おまけに布団もなくて、無人島へ取り残されたようなもの。
 どうしよう。妄想しただけで死ねそうだ。
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