花姫コネクト
 陽の光がなくなって、周りが見えにくくなって来た。読んでいた小説の文字が暗闇と同化していく。

 ひとつ空けた隣から、パタンと本を閉じる音が聞こえた。読み終えたわけじゃなくて、もう読めないからだろう。

 それでも私は、まだ背筋を伸ばしたままページを開いている。

 ほとんど内容は入っていないのだけど、他に気を逸らしていないと息が詰まるから。

 お母さん、心配してるだろうな。警察に電話してないといいけど。


「……結構、暗くなったね」

 静かな空間に、しとやかな声が落とされた。

「ほんと、夜の学校ってこんな暗いなんてびっくりだよねー! 先生たち、みんな帰っちゃったのかな。ちゃんと確認して欲しいよね!」

 わざとらしく張り上げた声に、高嶺くんが「そうだね」と微笑み返す。

 校舎を出る時に主電源が切られたのか、電気のスイッチを押しても付かなくなっていた。

 グランドの灯りがかろうじて入り込んで、高嶺くんの顔をやんわり認識出来るほどの明るさ。

 カーテンを閉めたら、全てが遮断されておばけ屋敷の中と同類になる。なんとしても避けたい。

 机の上で手を握っているとガタンと音がして、高嶺くんが隣へ移動して来た。

「大丈夫? 寒い?」
「寒くないよ?」

 図書室は木の影になっていて、白昼の熱をあまり溜め込まない場所。
 五月の終わりにもなると、多少の涼しさは感じてもわりと過ごしやすい。

 小刻みに動く手をぐっと押さえながら、小さく息を吐く。あれ……、体が震えてる?
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