花姫コネクト
***

「もう分かりません。すごくドキドキしたし、素敵だなぁって思ったんですよ」

 目の前に座る乙谷部長が、うんうんと相づちを打つ。

 テスト期間一週間前で部活動が休みのため、古民家カフェに来て話を聞いてもらっているのだ。
 昨夜、図書室に閉じ込められて高嶺くんと一夜を明かしたことを。

「なのにーー、咲いてなかったんです。これが恋なのかもって思ったのに、花咲いてなかったんですよ」

 耳の後ろで開く時を待つ蕾は、心なしかシュンとしているように見えた。

 夢に見た花の王子さまは、たぶん高嶺くんだった。運命の人なのかもしれないのに、一ミリも開いていない。

「もしかしたら、吊り橋効果による相乗(そうじょう)効果が働いたのかもしれないわね」

「……つり橋……ソウジョウ?」

「暗闇にいる不安や恐怖からくるドキドキを、恋と勘違いすることよ。今はどう? その高嶺くんって子のこと考えて、きゅんってくる?」

 優しく包み込んでくれる手は穏やかで、温かくて。
 初めて男の子と手を繋いだから、思い出すだけで心臓が揺れる。

 ーーでも。


「……よく、分かりません。してるような、違うような」

 それがどういった感情から現れているものなのか、特定出来ない。

 ああーー、すくってもすくっても、水のように流れていく。自分の気持ちを掴むことも出来ない。


「大路さん。なんか……、無理してない?」

 言われた意味が分からなくて、私は首を傾げる。
 無理してるって、何を?

「私には、一生懸命恋にしようとしてるように見える」

 ぐっと手のひらを握りしめる乙谷部長に、少しだけ反抗したくなった。
 悪いと思いながらも、開こうとする唇は止められない。

「……恋、したいです。早くみんなと同じように恋をして、花を咲かせたい。誰かを好きになる気持ち、私も知りたい。こんなの、おかしいですか?」
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