花姫コネクト
 恋であって欲しかった。高嶺くんを好きになれたら、きっと毎日がわくわくして楽しくなる。

 彩葉(いろは)ちゃんたちと普通に恋バナで盛り上がって、青春しているんだって堂々といられるはずだから。

「ううん、ダメとかじゃないの。ただ、恋ってしようと思ってするものじゃない気がして。焦らなくても、いいんじゃないかな」

 言いにくそうにしながら、乙谷部長は自らの手を握る。

 一度でも誰かを好きになった経験があるから、そんな余裕なことが言えるんだ。惨めで肩身の狭い思いをしていないから。


「少なくとも私は、恋をして良かったとは思えなかった。出来るなら、もう一回初恋をやり直したいから」

 何も言えなかった。

 伏し目がちな視線は、涙袋が持ち上がっているけど切なげで。
 昔を思い出しながら、苦い感情を押し殺しているようだった。

 乙谷部長のこと、何も知らないくせして。嫌な思いをしていないと、勝手に決めつけた私は最低だ。


 黙っていると、ことんと皿が出された。苺、栗、それから抹茶の可愛らしい団子が品よく並んでいる。

「少女たち、そろそろお腹空かない?」

 黒髪ストレートが似合う綺麗な人が、にっこりと笑いかけていた。
 どことなく雰囲気が似ている。お店の人だろうから、もしかして。

「夏姉さん! ここはいいから……」

 頬を染めて背中を押す乙谷部長の後ろから、ひょこっと顔を出して。

「小春が友達連れてくるなんて珍しいから、テンション上がっちゃった。今お客さん少ないし、ゆっくりしてってよ」

「早く……仕事に戻って!」

「いいじゃないー! 小春の友達ちゃん、それサービスね」

 カウンターへ連れられながら、夏姉と呼ばれた女の人はこちらを向いたまま去って行った。

 突然だったから少し驚いたけど、きっと良い人なんだろうな。
 数回のやり取りを見ただけで、乙谷部長が大切にされていると伝わって来た。

 抹茶の団子を一口食べると、ほっこりした気持ちが湧き上がる。


「……おいしい」

 ほどよい甘さが広がって、あとから少しの苦味が現れた。


 ーー誰かにとって特別な存在であるって、羨ましいな。
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