花姫コネクト
 新聞制作の作業がない時期は、部室がただの集まり場へと変わる。
 こてんと机に伏せたまま、頭の上を飛び交う声。

「ああ、悠晴(ゆうせい)とは小学校同じで。あいつのねーちゃんと俺のお兄が同じ高校なんだわ」

「そう、良い子だったね。冬姉(ふゆねえ)夏姉(なつねえ)も、彼のことすごく気に入ってた」

 言いながら、乙谷部長の視線がちらりと飛んでくる。
 何かを見透かすような瞳が、レンズの奥からじっと見ている。

 うう……、思わず目を逸らしてしまった。

 ガタンと立ち上がる音がして、乙谷部長がかばんを肩にかける。
 日本人形のような黒髪ボブを揺らしながら、ひらりと手を振った。

「じゃあ私はこれで」

 淡く輝く花が髪の隙間からのぞくたびに、胸の奥がキュンと鳴る。
 もし恋をしたことがあったなら、正しい答えを導けるのかな。


「あ、あの……、部長」

 どうしたら……。

 帰ろうとする背中を引き止めるけど、次の言葉は出ない。

「ん、なに?」

 ……良かったですか?

「いえ。サプライズバースデー、ほんとに嬉しかったです。ありがとうございました」

 昨日から何度も伝えていることを、もう一度復唱して。いいの、いいのと返される。

 もちろん感謝しているに変わりないけど、今言いたかったのは別のこと。
 ごくんと緊張の(つば)を飲み込むたびに、胸の奥へ隠れてしまう。

「また明日ね」

 結局なにも聞けないまま、乙谷部長は部室を出て行った。

 図書室に閉じ込められた時は、何も考えずに話せたのに。
 告白されたことが照れ臭くて、恥ずかしさもあって相談出来ない。


「で、これからどうすんだよ」

 二人きりになった部室に鍵を掛けて、姫先輩がくるりと振り向いた。ほのかに甘い香りが漂う。

 逃げ道はないと言わんばかりに、学ランのポケットに鍵を忍ばせて、無愛想な瞳が覗き込んだ。
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