花姫コネクト
 話したいことだけ話し終えて、彩葉ちゃんたちは席へ戻って行く。
 たぶん、私が教室を離れていたことなんて忘れている。

 良かったような、少し寂しいような。

 放課後、部活へ行く用意をしてトイレから戻るなり、心臓が跳ね上がる会話が聞こえて来た。
 足を止めて、その場で動けなくなる。


「もっとカレシの話したいけど、やっぱり話しづらいなぁ。気使っちゃうっていうか」

「分かるー! 恋バナとか興味なさそうだもんね。無理してする必要ないんじゃない?」

「……うん」

「仕方ないよー。だって華ちゃんって、まだツボミじゃんね。恋する気持ちは分かんないよー」

 ーーガタン。教室へ入る人影にぶつかられて、隠れていた姿があらわになった。

「あ、ごめん」

 男子の声に、二人が振り返る。
 目があった瞬間、やってしまったという顔色がうかがえたから。

 ヘラッとした態度を作って、小走りに中へ入った。


「忘れものしちゃってー!」

 てへへと笑いながら話すと、二人の表情がほっとやわらぐ。

「生物の教科書入れ忘れちゃって」

 机の中をガサゴソと漁るけど、頭の中は真っ白。落ち着け、落ち着け。
 今は生物の教科書を探せばいい。

「そっか……。宿題、あるもんね」
「そうそう。ないと困るから」
「もう、華ちゃんてば相変わらずドジっ子ちゃん」

 隙間のない場所に入れようとするから、教科書が斜めになっていてもおかまいなしで。
 かばんのファスナーも開けっ放しで、バイバーイと教室を出た。
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