花姫コネクト
 同じ歩幅で歩きながら、かばんを握る手が湿(しめ)り出す。
 一人用の傘に二人で入ると、いつもより距離を縮めなければならない。


「離れすぎじゃね? もっとくっ付けよ、意味ねぇから」

「だから、もういいって言ってるのに。先輩の道、ぜったい過ぎてますよね?」

「……まだ。今日はこっちに用があんの」

 とか言って、絶対に嘘だ。あきらかに駅から遠ざかっている。

 迷惑かけちゃいけないと分かっているのに、足はどんどん前へ進む。甘くて優しい傘から、出ることが出来ない。


「あのさ、高嶺、どうなった?」
「……断りました。でも、友達でいてくれるって」

 少し間をあけて、そうとだけ反応がくる。お互いに正面を向いているから、どんな表情かは見えない。

 やっぱり、高嶺くんが話したのかな。
 もやもやとした空気が、胸の奥から湧き上がってくる。

 花が咲いてなくても、私だって恋の話くらいするよ。彼氏とのノロケ話も聞くのに。
 相談された時は、的確なアドバイスは期待しないでほしいけど。

 雨が強くなるにつれて、心にかかる雲がどんよりしていく。
 ぜんぶ、自業自得(じごうじとく)。上手く恋の話に入れなかったから、すべて自分がまいた種。

 ーーブブブ。スカートに入っているスマホのバイブが鳴って、なんとなしに画面を見た。少しでも気が紛れるかと思って。

『はなー! ふぶきがまた風邪こじらせた。いつものだと思うけど、一応病院行くから。ごめんね。鍵持って……』

 表示された文字を最後まで確認することなく、ロック画面は暗くなる。

 あーあ、また家にひとり。風吹(ふぶき)の心配が過ぎるより先に、自分勝手な感情が押し寄せてくる。

 そんなみにくい自分がきらい。

「家、行ってもいいですか」

 ぴしゃぴしゃと水の跳ねる音がして、白いスニーカーを黒く汚す。

「家って、俺ん()?」

 こくんと首だけを動かすと、なんでとあきれたような声が返ってきた。

「帰りたくない気分なんで」
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