花姫コネクト
 わがままを言っていることは、痛いほど分かっている。
 自分の家を通り越してまで送ってくれて、予定があるかもしれない姫先輩に迷惑をかけていることも承知の上で、言った。

 ーー我慢するばっかが、正解じゃないだろ。

 帰ったら、お母さんに話そうと思っていたこと。ぜんぶ無理になってしまったから。
 この気持ちをどうしたらいいのか、迷子になった。


「……こっち」

 ぐいっと引っ張られた腕。来た道をしばらく引き返して、交差点で右折する。

 やっぱり通り過ぎていた。そんなことを思っていると、少し先に市立(しりつ)病院が見えてきた。
ふーちゃんがいつも入院しているところ。

 姫先輩の家って、こんな方向だった?

 そのまま進んでたどり着いたのは、市立病院の入り口。戸惑う腕を引いて、我が物顔で入ろうとするから。


「なんで?」

 自動ドアの手前で立ち止まる私に、いいからと中へ(うなが)す。

「帰りたくないんだろ? じゃあ、ちょっと付き合え」
「えっ、でも。ここって」
「俺が部活休む理由。特別に教えてやるから」

 上りのエレベーターに乗りながら、頭の中はハテナでいっぱい。

 姫先輩が定期的に部活を休んでいるのは、ただのサボり癖ではなかった。
 ちゃんとした理由があるのに、言えなかったの?

 病院ってことは、まさかーー。

 エレベーターが止まったのは、六階。
 ここは患者さんが入院しているフロア。誰かのお見舞いに来ていたのかな。

 病気で通っているかもしれない予感が外れて、少しだけほっとする。
 でも、誰かは体調が悪くてここにいるのだから、今の安心は取り消さなくては。

 病室の前に立った姫先輩が、「話、合わせて」とだけ言ってドアを開けた。
< 60 / 133 >

この作品をシェア

pagetop