花姫コネクト
「おお……、(きょう)! よく来たな。待っとったぞ」

 ベッドから上半身を起こしたのは、白髪でしわだらけの頬をさらにくしゃけて笑うおじいさん。

 腕には点滴が繋がっているのに、大きな手ぶりをして話すから(くだ)がゆらゆらと揺れている。


「じーちゃん。俺が来るまでちゃんと大人しくしてたか? またダダこねて、看護師さん困らせてねーよな」

「なぁーにを言うか。病人扱いするなと言っとるのに、針ばっか刺しおるで。こんなもん、わしにはいらんのだ」


 ぷいっとそっぽを向く姿が、ふーちゃんの()ねる時と似ていて、ぷっと吹き出してしまう。

 あっ、とした顔でこちらを見ながら、おじいさんが重そうなまぶたを細めて。


「こりゃあ大変だ。このべっぴんさんは、どちらさんだ?」

 なぜか背筋がぴんと伸びて、身が引き締まる。何か、話さないと。そうだ、とりあえず自己紹介。


「初めまして。後輩の(おお)……」
「この子が華。俺の、彼女」

 ……カノ……ジョ?
 頭の中で何度もリピートされる聴き慣れないフレーズ。


「おお、この子か! 華ちゃん、いやぁ〜会えて良かった」

 がっしりと握られた手に、おどおどしつつ笑みを作る。何がなんだか、状況が分からない。

 姫先輩の横顔へ視線を送りながら、ついさっきの言葉を思い出す。
 病室の前で言っていた『話、合わせて』とは、このことだったの?


「え、えっと……大路……華です」

 流されるように名乗るけど、胸の内はもんもんとしている。彼女って、カノジョって……なに⁉︎


「そうか、そうか。やっぱり響はわしの孫だな。昔のわしに、よう似とる」

 ガハハと笑うおじいさんの耳に、しおれた茎がぶら下がっている。
 歳を取ると、色素が吸収されてなくなるものだと思っていた。
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