花姫コネクト
「……お前さんも花、咲いとらんのか」

 言われて思わず耳を覆う。
 恋をしてないって、彼女じゃないって気付かれちゃった?
 感情がない子なんだと思われた?

 恥ずかしかしい。怖い。どうしたら……。

「なあに、(おび)えることはないさ。響も蕾だ。それに、わしも花を咲かせたことはない」
「……えっ? でも」

 結婚したから、姫先輩がいるんじゃないの?
 顔を上げると、テーブルの傍に置いてある写真を手にしながら、おじいさんが穏やかに目尻を下げる。

 お年を召した女の人。もしかして、姫先輩のおばあちゃん?

「いいか、二人ともよく聞け。恋慕草(れんぼそう)は、一種の感情表現にすぎん。いくら花が開いていなくとも、誰かを想う心がないわけじゃあない。見えるものだけに惑わされるな。自分を信じることが大事なんだ」

 私たちを見て、嬉しそうに昔の話をしてくれた。
 姫先輩のおばあちゃんと出会って、告白されて、恋咲き花は開かなくても付き合うことにしたこと。

 周りからは冷たい目で見られたけど、二人は結婚して幸せだったと。

 看護師さんがバイタルのチェックに来て、私たちは病室を出た。
 下のロビーまで送ってくれると言うので、二人でエレベーターに乗り込む。


「……良かったんですか? あんな嘘ついて」

 ガラス張りの窓から、薄暗くなった空が遠のいて行くのが見える。

「俺に昔の自分重ねてるみたいで、花なんか咲かなくても結婚して家族作れるんだってうっせーから」

 おじいさんは、嫌なことをたくさん経験してきたんだろう。だから、まだ蕾を付ける姫先輩を励ましたかったのかもしれない。

「あんまり言うから、彼女いるってことにしたら今度は会わせろって。あのじーさん、単純なんだ」

 数字がチカチカと光って、ゆっくり止まる。
 ドアが開くとき少しだけ隣を見上げたら、小さく笑みが浮かんでいた。

 先輩って、こんな優しそうに笑うんだ。
< 62 / 133 >

この作品をシェア

pagetop