花姫コネクト
 総合受付を通り過ぎて、時間外入り口へ向かう。自動ドアが開いたところで足を止めた。

「……先輩。すみませんでした」
「なにが?」
「新聞部に入った理由。サボりたいだけとか言って」

 いつもやる気がなくて、不真面目で。意地悪ばかり言う姫先輩だけど、

 ーー見えているものだけに惑わされるな。

 ほんとうは、不器用で人の気持ちを考えられる優しい人だ。

「ちゃんと理由言ったら、乙谷部長も怒らないんじゃ……」
「王子、知ってるか? 嘘には、付いていい嘘と悪い嘘があるって」

 ドアが閉まりかけて、また開く。

「いい嘘なんて、あるんですか?」

 小さく開きかけた唇が、一度閉じて。

「誰かを幸せにできる嘘。今日のじーちゃん、すげー嬉しそうだった。付き合ってくれて、ありがとな」

 ニッと白い歯を見せる姫先輩は、花が咲いていなくても、きらきら輝いて見えた。


 雨が止んだ空は静かで、夜になる準備をしている。
 一人で帰るのは危ないと言われたけど、たぶんお母さんは病院の中だ。ふーちゃんがいるから、出てこられないだろう。

「もうすぐ、お母さん迎えに来てくれますから。大丈夫です」

 スマホを閉じて、あたかも連絡をしたような素振りを見せる。
 これ以上、姫先輩には迷惑かけられないから。

「……家着いたら、ちゃんと連絡しろよ」
「はーい。なんかお父さんみたい」
「やめろ」

 あはは、と笑ってガラスの向こう側へ踏み出した。手を振りながら、先輩の姿が見えなくなったのを確認して建物の陰へ入る。

 病院のライトが届かないところは真っ暗だ。近くの公園はまだ薄っすら光があるけど、少し先は肝試しのような道が続いている。

 どうしよう、怖いな。
 やっぱり、頼めばよかったかな。

 いかにもお化けが出そうで、足がすくむ。
 意を決して一歩前へ出たとたん、ぽんと肩を叩かれて、ホラー映画並みの悲鳴が響いた。
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