花姫コネクト
「落ち着け、俺だ、おれ!」

 しゃがみ込んだ背中から、聞き慣れた声がする。

「どうして……?」

 押さえた頭を上げると、あきれた顔が(のぞ)いていた。眉間にしわを寄せる姫先輩。

「忘れごと」

 同じ目線になると、おでこにデコピンをされて。少しの痛みがじーんと広がった。

「お前の嘘は、ついちゃいけねー嘘だってこと」
「……え?」
「ほんとは迎えの連絡してねーだろ」
「なんで……」

 姫先輩には、なんでもお見通しなんだろう。
 胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
 水に入ったみたいに目の前が波打って、あっという間に涙がこぼれそうになる。

 泣くつもりなんてないのに。止められそうにない。またひとりぼっちだと思ったのに。まさか戻って来てくれるなんて。

「バレバレなんだって。だから、もう嘘つくな。いちいち心配すんの面倒だし、素直に言われた方が何倍もマシ。もっと誰かに頼る練習しろよ」
「……しぇんぱい」
「少なくとも、俺はそんなんで嫌ったりしねーから」

 すびっと鼻をすすりながら、小さな子どもみたいに何度も目を拭う。
 頼っていいんだ。姫先輩には、もう少し甘えていいんだ。

「だから、鼻水」
「先輩のせいです。先輩が優しいこと言うから」

 変なの。今の私、泣きながら笑ってる。
 姫先輩の親指の先が、そっと光る筋をなぞる。

 無言で見つめられると、気がおかしくなりそうだ。ぐちゃぐちゃの顔だし、あまり見られたくないのに。

 ふいっと背けた頬から熱が込み上がってきた。

 いくら鈍感な私でも分かる。これが、花咲レッスンの高鳴(たかな)りとは違うこと。
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