花姫コネクト
「……はな? やだ、華じゃない!」

 暗闇に浮かぶ明かりの下。外灯に照らされて飛び込んで来たのは、お母さんの驚いた顔。

 肩に乗っかるふーちゃんのお尻をよっと上げて、腰を低めている私たちを覗き込む。

「どうして病院(ここ)にいるの? こんなところにうずくまって、何してるの? ええっと……この男の子は?」
「あの、あのね……」

 何も出てこない。頭の中がカメラのフラッシュで真っ白になったみたいに、答える言葉が飛んでしまった。

 金魚みたいに口をぱくぱくと動かしていると、姫先輩が立ち上がって、

「三年の姫川と言います。いろいろ相談ごとを。ちょうど帰ろうとしてたところで。こんな暗くなるまで、すみません」

 礼儀正しく話し出すから、あっけに取られてしまう。
 いつも態度が大きくて口も悪いのに、ちゃんとした対応をしている。

 詰まって話せない私の代わりに、オブラートに包むような理由をつけてくれた。
 姫先輩って、すごいな。

「華、学校で何かあったの? ごめんね、なかなか聞いてあげられなくて」

 ううんと首を横に振る。

「風吹、今日は点滴だけで終われたから。家に帰ったら話聞かせて?」
「うん」

 うなずいた時には、また目の奥から感情が押し寄せて。大きな水の玉が、ぽろぽろと止めどなくあふれてくる。

「えっ、はな⁉︎ どうしたの〜。ほら、泣かないで」

 ふーちゃんをあやすように、お母さんは私の頬を掴みながら優しく涙を拭う。

「忙しいと思って、迎えに来てとか……話したいことも、なかなか言えなかった。お母さん、仕事とふーちゃんのことで大変だし、困らせるから」

「うんうん、そっか。お姉ちゃんを頑張ってくれてたんだね。気付いてあげられなくてごめん」

 柔らかな手のひらが頭を包み込んで、ふわふわと撫でる。
 いつも握っていたお母さんの手の感じ、久しぶりだ。
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